STORY&REPORT

円周魚眼で8枚撮りする理由

このタイトルを見て、「えっ?」と思う人は多いでしょう。シグマの8mmに代表される円周魚眼レンズを使ってQTVRを作る場合、水平方向に8枚撮る人はそうはいないはずです。でも、僕はあるきっかけから8枚撮りを始めるようになりました。ステッチ上手な人にはまるで無縁な方法なんですが、「8枚撮りのなぜ」を書くことにしました


 シグマの8mm、円周魚眼レンズでQTVRの素材を撮影する場合、フルサイズ・センサーならば3枚、APS-Cサイズセンサーならば4枚。これが、水平撮影の常識的な数字です。余裕というかマージンを考えて、あと1〜2枚増やす方はいるかも知れません。ただ、僕がKissXもしくは20Dでやる8枚撮りという方法は、tipsやHow toを公開しているようなサイトでお目にかかったことはありません。だから、このページで取り上げることにしました。ただ、この水平8枚撮りをメリットと感じる人は、あまり多くないかも知れません。特にステッチが得意な人からは、鼻で笑われちゃうかも知れません。あえて公開しますが、どちらかというと、撮影とPC作業のどっちなら苦労してもいいかと聞かれれば、「撮影っ!」と迷わず答える人向きのやり方だと思います。

 僕は基本的には、QTVRの撮影で三脚を使用します。手持ち撮影を何度かやったことはありますが、あまり芳しい成果は得られていません。一脚がせいぜい僕が使える限界でしょうか。実は、8枚撮りのヒントは、一脚撮影をしていた時のミスから思いついた方法です。ちなみに、4枚撮れば済むのになぜ8枚撮るんだ。そう言われる方もいるでしょう。面倒だってね。でも、90°回転する途中に一回止まって撮るだけですから、僕はあまり手間とは思いません。それに、今でも積極的に円筒パノラマを作るし、最近はストレートレンズ(おかしいですよね、この言葉。魚眼レンズが特殊なレンズのくせに、普通のレンズをわざわざこう呼ぶなんて)を使ったマルチロー撮影が増えているので、僕は8枚撮りをちっとも手間とは思いません。

シグマの8mmレンズです。現行では、普通の人が普通に新品を手に入れられる唯一の円周魚眼レンズです。ただし、僕が持ってるこれは2代前のものです。
45°間隔、つまり8枚撮りで撮影した2枚です。普通に考えれば、この間隔で撮っても重なり合う部分が多すぎて、あまりメリットとは言えません。

 ちょっと前置きが長すぎました。本題に入りましょう。撮影枚数が少なくなればなるほど、つなぎ目ももちろん少なくなります。そして、ひとつのつなぎ目にかかる比重が大きくなります。通常の4枚撮りならば、つなぎ目は4つできます。ひとつのつなぎ目にほころびが出れば、作ろうとしているQTVR全体に響きます。僕がやっている8枚撮りは、このつなぎ目のほころびを、簡単に修復というかごまかすことができる方法だと思っています。

 8枚撮影したら、その8枚をふたつにわけます。8枚全部を並べてステッチするわけではありません。つまり、撮影順で言えば、1-3-5-7枚目、2-4-6-8枚目をそれぞれステッチします。つまり、ステッチは2回やります。僕は、パノウィーバーを使ってますが、基本はオートステッチでやってしまいます。で、2組のJPEGイメージを出力します。つまり、ほとんど同じファイルが2枚出来上がるわけです。勘のいい方なら、もう8枚撮りのなぜ、に気がついたのではないでしょうか。
 出力したファイルの一枚(撮影1-3-5-7枚目)を仮にA、一方(撮影2-4-6-8枚目)をBとしましょう。Aのファイルの1枚目と3枚目のカットのステッチ部分は、Bのファイルではステッチされていない2枚目に撮影されたカットが使われる部分となります。つまり、Aの1枚目と3枚目のステッチ部分にほころびがでていたら、Bのステッチされていない同じ部分をコピーして合成してしまえばいいのです。


8枚撮影して2組みに分けてステッチ、出力したファイルです。ほとんど同じファイルがふたつ出来上がります。ただ、当たり前ですがつなぎ目の位置は違います。緑のラインが、大体のつなぎ目です。ちなみに、つなぎ目の間隔が違うなどという質問は僕にはしないでください。僕の方がイージーパノ社に聞きたいくらいなんです。

 僕のステッチ後の作業は、大体以下のような感じです。まず、出力した2枚のJPEGファイルのステッチ位置を入念に比較します。2枚の内、ベースにする方を決めるわけです。当然、ステッチでのほころびの少ない方を選びます。そして、うまくつながっていない部分に、もう一方のステッチされていない部分を貼り合わせていくわけです。
 ただし、右から左へハイッ貼り合わせ、そういう簡単な作業ではありません。ステッチがうまくいってないということは、つなぎ目の上下左右の位置関係がずれているということです。ですから、幅や角度が変わってしまっているので、単純な貼り合わせではうまくいきません。それでも、貼り合わせる部分のエッヂをレイヤーマスクでなじませたりすれば、どうにかなるものです。フォトショップで作業しますが、自由変形ツールをあーでもないこーでもない、ってな感じでやってます。ちなみに、僕のフォトショップはCSです。CS2の自由変形ツールのワープをいっつもうらやましく思ってます。CS3は即買いすることになっているんですが…

 多くの人は、ステッチ前の画像がブレンドされたレイヤーマスク付きのPSDあるいはTIFFファイルを出力させて作業していると思います。僕も、この8枚撮りにたどりつく前は、その方法で作業していました。でも、どうしても微妙な所でイライラしちゃうんですね。マスクの本当にあと数ピクセルなんてところで、レイヤーの下のほころびが出てきちゃうなんて時は、ストレスさえ感じちゃいます。ですから、この8枚撮りにたどりついた時は、ホッとしたというか安心したというか。どんどん、円周魚眼レンズで撮影しよう、そんな気になったくらいです。わざわざこんなことやらなくても、きれいに仕上げられるという人にとっては、もちろん、どうでもいいことでしょう。8枚撮る。2種類のファイルを出力する。この手間さえ惜しまなければ、僕にとってははるかに作業しやすく良い仕上がりになる。だから、僕は8枚撮りなのです。
 撮影時には応用をきかせることもできます。例えば、人通りのある所で撮影する時。まず人の流れを意識しつつ4枚撮ります。その後、45°ずらした2周目は委細構わず撮影します。ステッチ部分のほころびを修復しつつ、半透明の幽霊人間の発生をある程度コントロールすることができます。


左のカットでは、後方のビルのエッジや手前の家の屋根部分がうまくいっていません。右のカットがきれいなのは当然です。

Photoshopで作業します。単純な貼り合わせではすまないのですが、この合成作業のコツはつかみつつある、そんな感じです。

 さて、世の中には揚げ足取りが好きな人が結構います。ここまでの話を読んで、「それじゃぁ、オマエは広角レンズで撮影する時も2倍のショットを撮るのか」なんて、突っ込みが入るかも知れません。もちろん、広角レンズで撮影する時、例えば18枚撮影の時に36枚撮るなんてことは絶対にしません。ソフトがどう計算したり、いかに動くかは僕にはわからないことですが、魚眼レンズと普通のレンズではステッチの質が違います。普通のレンズではその必要はない。それが僕の判断です。